เข้าสู่ระบบ「何を言ってるんですか! わたしなんか、すぐに死んじゃいますよ」
ティナは思わず声を張り上げた。その声音には、心底からの恐怖と、そらの無謀さに対する強い抗議が込められていた。
「その杖を使ってれば余裕じゃない? ボクは前衛で剣を使うから、後衛はティナに任せたよ」
そらは自信満々に言い放った。その口ぶりは、もう竜の谷へ行くと決定をしたような口ぶりでティナの意見を聞くつもりはないようだった。
「何で勝手に決めてるんですか! もお……」
ティナが必死に抗議するも虚しく、抵抗もできぬままにそらの手に掴まれた身体は、一瞬の浮遊感の後、強制的に竜の谷の森の中へと、転移で連れてこられていた。周囲は苔生した巨木が生い茂り、薄暗く不気味な静寂が漂っている。湿った土と植物の匂いが鼻を突いた。
「はあ、勝手に連れてこられていますし……べつに、そらさんと一緒なら良いですけど……まったく……強引なんだから。他のことも、その、もっと強引にしてくれても良いのですけど……ね……」
ティナは、誰も聞いていないのを確認してから、ぶつぶつと不満を極小の声で漏らした。顔は耳まで熱を帯び、桃色に染まっていた。彼女は先ほどの恐怖よりも今の状況に胸を高鳴らせている。
そらは探索魔法を使わなくても周囲に中級クラスの魔物が数体、近くに気配がするのを感じていた。今回はティナと冒険を楽しむので、チート能力など探索魔法は使わないと決めていた。とはいえ、自分たちの安全は確保の為に目に見えない、強固な結界だけは即座に展開した。森の空気はピリと張り詰め、魔物の気配が濃い。
「探索しに行くよ」
そらは周囲の警戒を怠らず、魔物の気配が濃い森の奥へと足を踏み出した。その足取りには迷いが微塵もない。
「ホントに行くのですか!?」
ティナは信じられないといった表情で、目を大きく見開いた。彼女の表情には、この恐ろしい場所に来たことへの不安と、そらの行動力への驚きが色濃く出ている。だが、魔物のいそうな場所へ迷わず進んでいくそらの背中を見て、ためらいながらも「仕方ないな」という諦念と共に、そらの後を追うように付いてきてくれた。彼女は両手で杖をしっかりと握りしめ、周囲を警戒しながらそらのすぐ後ろを歩いた。苔と腐葉土の湿った地面を踏みしめる度に、微かな音が森の中に吸い込まれていった。
そらとティナが森の奥へと進み始めたその瞬間、周囲の静寂を切り裂くように殺気が爆発した。
突然、唸り声と共に一体の巨大なオーガが、木々の陰から飛び出し、大木のような太い腕に握られた、岩のようにごつごつした剣を振り上げ、そらに向かって、地響きを立てながら襲い掛かってきた。その一撃は風を切り裂き、凄まじい破壊力を秘めていた。
そらは反応が早かった。一歩も引かず、腰に携えていた愛用の剣を鞘から抜き放ち、オーガの振り下ろした大剣を、真正面から受け止めた。
ガァン!
金属が激しく衝突する、耳を劈くような衝撃音が森中に響き渡り、その衝撃で周囲の地面が大きく揺れた。オーガの怪力に押され、そらの足は湿った土に深くめり込むが、体勢は崩れない。そらの表情は真剣そのもので、力込めた両腕の筋が浮き出ていた。
「ティナ、魔法攻撃よろしく!」
そらは剣を押し返すように力を込め、オーガとの間合いを僅かに開けながら、後衛のティナに指示を飛ばした。殺さないように急所を避け、時間を稼ぐための防戦に徹する。剣と剣が火花を散らし、森の中に激しい戦闘の匂いが立ち込める。
「え、あ、はい!」
突然の襲撃に一瞬、動揺したティナだったが、そらの切迫した声に我に返った。新しい杖を両手で固く握りしめ、すぐに詠唱を始めた。
「アイシクルショット!」
杖の魔石が青白く閃光を放ち、無数の鋭い氷の槍が弾丸のように高速で連射された。凄まじい威力で増幅されたアイシクルショットは、まるでミサイルの群れのように空気を切り裂きながら、オーガの胴体へと、その全てが吸い込まれるように命中した。
ドス、ドス、ドス!
硬い表皮を貫通する、鈍い音が連続し、オーガは一瞬、動きを止めた。全身に多数の穴が開き、勢いを失ったオーガは、ぐらりと体を傾け、巨大な体躯を地面に叩きつけ、あっけなく討伐できた。氷の魔法が命中した場所は瞬時に凍りつき、周囲には冷気が僅かに漂っていた。
「ティナ、楽勝だったね。じゃあ次行くよ!」
そらは、討伐したオーガを一瞥するだけで、すぐに森の奥へと視線を向けた。その表情には、高揚感と更なる探索への意欲が満ちていた。
「え? えっと……まだ、行くんですか?」
ティナは、少し疲れた顔をしていた。戦闘の緊張と、規格外の杖から放出される魔力の反動で、肩で息をするような状態だった。
低級クラスの魔物はそらが剣の冴えで瞬殺していくが、途中、中級クラスの魔物も現れ、そらが勢い余って数体倒してしまった。魔物の血と土の匂いが混ざり合う中、そらは申し訳なさそうに頭を掻いた。
「ごめん。ティナの獲物を倒しちゃった」
まだ眠っているティナのそばに寄り、その柔らかな頬を人差し指でそっとぷにぷにと触れてみた。その感触の良さに、俺は思わず口元を緩めた。「きゃぁ……」 突然の刺激に、ティナは小さく悲鳴を上げ、体をビクッと震わせると、飛び起きるように上半身を起こした。まだ覚醒しきっていないのか、瞳は潤んでいる。「朝ですよー。罠の見回り行くけど一緒にくる?」「え、あっ……はい。行きます。行きます!ちょ、ちょっと待ってください!」 ティナは顔を赤くしながらも、俺からの誘いを断ろうとはしなかった。そして、信じられないことに、彼女は俺の目の前で、慌てた手つきでパジャマを脱ぎ捨て、着替え始めた。 ――あれ?良いモノを見られたけど……恥じらいを無くした?ティナさん。 俺は複雑な気持ちでその光景を見つめた。最近のティナは、以前のような魔道士然とした重厚な服装ではなく、動きやすさを重視したワンピース姿で、少しはお洒落を楽しむようになったように見えた。しかし、その服装に反して、彼女は常にそらからプレゼントをされた魔道士の杖を手放すことはなかった。新調された可愛らしい服と、いかにも魔導士という杖の組み合わせは、どこかちぐはぐな印象を与える。 着替えが終わるのを待ってから、俺はティナと共に森の奥へと足を踏み入れた。朝の湿った土の匂いが鼻腔をくすぐる。二人は、昨日仕掛けた罠の場所へと静かに向かった。 鳥が捕れていれば良いな、と俺は子供のように期待して胸を高鳴らせた。ワクワクしながら森の中を進む。 罠へと向かう途中で、地面は次第に湿って足場が悪くなったため、転倒しないようにと自然にティナと手を繋いだ。彼女の小さな手のひらの温もりが伝わってくる。 ティナは弾んだ声で言った。「今日も、いっぱい捕れていれば良いですねッ」「鳥が、いっぱい捕れてたら嬉しいなー」 期待を込めて罠へと辿り着いた瞬間、目の前の光景に二人は息を飲んだ。罠は無残にも荒らされていた。「え? なに」 ティナの表情
賑やかな宴も終わり、食事の片付けを終える頃には、皆、剣術の稽古や日中の活動で疲労していたのだろう。周囲は急速に静けさを取り戻し、寝床に就く時間も普段より早くなった。静かに揺れる焚き火の炎だけが、疲れた仲間たちの眠りを優しく見守っていた。 ——翌朝、夜露に濡れた草木が微かな光を浴び始める頃、俺は静かに目を覚ました。 テントの外からは、ヒュッ、ヒュッと空気を切り裂く鋭い音が響いてくる。レナが朝早くから外で真面目に素振りをしている音だ。そういえば、冒険者登録の際、剣士にとって毎日の練習が何よりも大事だと熱弁されたことを思い出す。彼女はそれを体現している。 そのレナの隣では、フィオが小さな体で一生懸命に剣を真似て素振りをしていた。その姿は健気で、とても可愛らしい。 ステフも既に起きており、焚き火の煙が薄く立ち上る中で、朝食の準備を始めていた。その勤勉さには頭が下がる。 一方で、エルとアリア、そしてティナは、まだ深い眠りの中にいた。昨夜の食事の後の安堵感と、日中の活動による疲労が残っているのだろう。静かな寝息だけが、テントの中から微かに聞こえてくる。 俺はレナの真剣な姿を見て、彼女の持つ真の実力をこの目で確かめたいという衝動に駆られ、剣を手に声を掛けた。「朝の練習、付き合ってくれるかな」 レナは一瞬の迷いもなく、力強く頷いた。「もちろん良いっすよ」 彼女も持っていた剣を構える。その瞬間、彼女の目付きは昨日の快活な少女から、研ぎ澄まされた一振りの刃へと変わった。気合いと共に、レナは驚くほど素早く距離を詰め、一気に俺へと打ち込んできた。その速度は、並の剣士のそれではない。 俺は反射的に後ろへと大きく飛び退き、レナの剣の射程圏外、安全な間合いを取った。だが、そこで留まらない。飛び退いた勢いを殺さずに、即座に踏み込みへと変え、視線を逸らすフェイントを入れると同時に、一気に距離を縮めて打ち込んだ。一瞬の攻防。カキンッという金属音は鳴らず、代わりにザシュッという嫌な音が響いた。 レナの剣は、衝撃で折れたのではない。俺の剣筋によって、まるで紙のように正確に断
「これは、大事にしまっておいてね。練習で使わないようにね!」 俺は念を押すように強く言い聞かせた。「はぁい。わかったぁー」 フィオは幼いながらも、その重要性を理解したように素直な返事をした。「じゃあ、テントの周りを案内するよ」 レナを連れて、俺たちはキャンプ場の設備を見て回った。露天風呂、清潔なトイレ、そして機能的なキッチンを順に案内していくと、彼女は驚きを隠せない表情を浮かべた。その瞳は、目の前の光景を信じられないといった様子で、何度も瞬きを繰り返している。「なんなんすか? ここ……」 彼女は呆然とした声で呟いた。「キャンプ場かな?」「ぜったい違うと思うっす!」 俺の適当な返答に、レナは食い気味に突っ込んだ。その反応は、この設備がいかに常識外れであるかを物語っていた。 レナは俺と会話を続けながらも、視線は絶えず、湯気が立ち上る露天風呂の方をチラチラと向けていた。彼女の顔には、剣士としての矜持と、湯に浸かりたいという誘惑との間で揺れる感情が読み取れた。「お風呂入っちゃえば?」 俺がそう声をかけると、彼女の顔がぱっと明るくなった。「え? 良いんっすか!? わぁっ。やったー」 レナは弾むような声と共に、喜びを隠さず脱衣場へと駆け出した。すぐにカタン、と音がして、彼女は露天風呂の湯船へとその身を沈めた。 ――あぁ……この人も恥じらいがない系の人だ。 彼女の姿を前に、俺は思わずため息を飲み込んだ。ティナより胸のサイズはわずかに小さいかもしれないが、年相応の瑞々しさがそこにあった。そして、剣士として鍛え上げられた体は無駄な肉が一切なく引き締まっており、均整の取れたスタイルは目を奪われるほどに良かった。「外でお風呂に入れるなんて思ってもいなかったっすよー」 湯船から顔を出したレナが、心底気持ちよさそうな声で言った。新鮮な外の空気と、体を包み込む温かい湯気に、彼女の心も体も解き放たれているのが見て取れた。
「ごめんね。今キャンプ中で、しばらくここに滞在するんだけど大丈夫?」 俺がそう尋ねると、レナは気に留める様子もなく、修行の日々を送る者特有の割り切りを持って首を横に振った。「自分は、どこでも寝れますので大丈夫っす。依頼もないので問題ないっす」 彼女の言葉には、僅かながら暇を持て余しているような退屈も滲んでいた。その時、小さな影が視界の端に映った。フィオだ。彼女はこちらに気付くと、弾かれたように駆け寄ってきて、力いっぱい俺に抱き着いてきた。その小さな体重と柔らかな温もりに、俺は思わず頬を緩める。「あ、この子をよろしくね」 俺はフィオの柔らかな頭を優しく撫でながら、レナに向かって彼女を紹介した。「え!? この可愛い女の子をっすかぁ……? 私が教えられるのは剣術っすけど?」 レナの目は、目の前の幼い少女に驚きと戸惑いを湛えていた。彼女の剣術にかける真摯さを思えば、遊び半分で教えることはできないという迷いが、声の調子から伝わってくる。「なんか剣の筋が良いって言われてさ」 俺がそう伝えると、レナは目を見開いた。その一言が、彼女の心の奥にある剣士の血を揺り動かしたようだった。彼女の瞳の奥に、探究心と期待の光が宿る。「そうなんっすか? じゃあ……少し見てみるっすか……」 レナが腰に佩いていた刀を抜き放つ。金属が鞘から擦れる微かな音が、周囲の空気を張り詰めた。その瞬間、彼女の目つきは一変した。先ほどの気楽な雰囲気は消え失せ、研ぎ澄まされた刃のような、鋭い光を宿す。「ちょっと私に、本気で打ち込んできてくださいっす」 真剣な眼差しを受け、フィオは迷いなく頷いた。「うん」 フィオも自分の剣を抜く。細い腕には不釣り合いなその剣が抜き放たれた刹那、周囲の空間が歪んだかのように感じられた。フィオの小さな体から、形容しがたい威圧のオーラが溢れ出す。それは、太古の力、ドラゴンの威圧そのものだった。まるで目に見えない炎のように揺らめき、辺りの草木さえも押し潰しそうなほどの重圧
そらが指差された方を見ると、テーブル席に一人の剣士が座っていた。彼女はティナと同じくらいの年齢の、まだ幼さが残る少女だった。しかし、頭にはピンと立った獣の耳が、腰からは長い尻尾が生えており、その美しくも野性的な見た目は、隠しようがない獣人族であることを示していた。 ティナは、その獣人族の少女をじっと見つめ、どこか懐かしそうな、そして少し痛みを伴ったような表情を浮かべた。「少し前の自分を見ている感じですね……」 彼女は、そっと囁いた。「ヘルプだけで暮らしていくのは不安ですよ。正式なパーティに入れれば安定した依頼を受けられますけれどね……わたし以上に差別があって難しいでしょうね。獣人族の見た目は、隠すことが難しいですから……」 ティナの言葉一つ一つに、過去の彼女が経験してきた苦悩や孤独が込められていた。姿は人間でありながら差別を受けたティナでさえ困難だったのだ。姿を隠せない獣人族の少女が、安定した生活を築くことがいかに難しいか、想像に難くなかった。 ティナの言葉を聞いたそらの胸は、ギュッと締め付けられるような思いがした。見た目だけで評価され、努力や実力が無視される世界の理不尽さが、彼の心に重くのしかかった。「あの子を雇ってみても良いかな?」 そらは、ティナの過去と重ね合わせ、その獣人族の少女を助けたいという気持ちが強くなっていた。彼はティナに問いかけた。「はい。良いのではないでしょうか」 ティナは即座に太鼓判を押した。「わたしも何回かヘルプで同じパーティになったことがありますけど、良く働く真面目で良い子ですよ」 ティナのお墨付きをもらい、そらは迷うことなく、ギルドマスターに軽く会釈をして、そのテーブル席へ向かった。 ギルドマスターが、二人の間に立ち、間の言葉を挟んで紹介してくれた。そらは少女に向かい、以前ティナに話したのと同じ契約内容を、落ち着いた声で伝え、交渉を始めた。「えっと……依頼内容は、子どもに剣術を教えること。待遇は、住み
フィオは満面の笑みを浮かべたまま、地面にゴロンと倒れ込んだ。これで、俺役は死んだらしい。 そらは、その光景を呆然と眺めていた。 (え? なんで!? 俺……弱くないか?) 心の中でそらは叫んだ。たったキス一発で戦闘不能になる「俺役」のあまりの弱さに、衝撃を受けた。 (その話の俺が、主人公じゃないの? 主人公が、たったキスで死んじゃって良いのかよ) 主人公としての立場と威厳が、キス一つで簡単に崩壊した事実に、そらは密かに頭を抱えた。 フィオに続き、次はアリアが「ティナは負けないわ!」と意気込んだものの、すぐにエル(魔物役)に襲いかかられた。アリアは抵抗する間もなく抱きつかれ、キスをされると、アリア(ティナ役)もそのまま倒れて全滅となった。 そらは、この展開に納得がいかなかった。 (魔物役がちょっと強すぎじゃないの。なんでキスで倒されるんだよ!) 思わずツッコミを入れたい衝動を抑えながら、そらは頬を引きつらせた。子供たちの想像力と遊びのルールは、彼の常識を遥かに超えていた。 また、始まるらしい。役は変わらず続行するみたいだ。(いろいろと異議があるが、放っておこう……)♢剣士の家庭教師 不意にティナに呼ばれ、そらは彼女と一緒に、川のほとりに設置された手作りのテーブルに座った。穏やかな川のせせらぎが、二人の会話を包み込む。「フィオは素早さと瞬発力がありますし、先ほどの討伐ごっこの際に木の棒を振り回すのを見ていましたが、剣の筋が良いと思いますよ」 ティナは、遊びの中とはいえ、フィオの動きを真剣に観察していたようで、その顔は教師のような真面目な表情をしていた。 (え!? そうなの?) そらは内心驚いた。フィオの運動神経が良いことは知っていたが、剣士としての才能にまで言及されるとは思わなかった。 (でも、剣術の基本が分かる人はここにいないから、誰も教える人はいないな……) 頭を悩ま







